
暖かさ最上位主義
F/CE.®が国内屈指のダウンファクトリーNANGAに別注を依頼するエクスクルーシブライン。そのディテールを解き明かすために4本のインタビューを更新していく。
第1回目では、NANGA代表である横田智之氏自ら、NANGAが寝袋メーカーとして成長していくストーリーをこと細やかに振り返ってくれた。続く第2回目となる今回のインタビューでは、NANGAの核であるダウンの品質に迫る。
Photo : Shouta Kikuchi
Text&Edit : Shota Kato
つねに暖かさを見据えたものづくりを
—— NANGAがダウンプロダクトをつくるうえで最も重視している点とは何でしょうか。
僕らが何を一番求めているのかというと、暖かさなんですよ。やはりNANGAは寝袋から始まっているメーカーなので、暖かいという口コミから売れ始めていますし、必然的にダウンウェアもそれを重視した形のものづくりを貫いています。
—— その暖かさを実現できるのはダウン(羽毛)の品質あってこそだと思います。
僕らは河田フェザーという三重県にある羽毛素材メーカーから直接羽毛を仕入れています。河田フェザーは国内屈指のメーカーで、高度な羽毛洗浄技術を持っているんですね。羽毛のホコリ、汚れ、アカなどを極限まで落とせるので、ふわっとした、保温性に優れた羽毛を仕上げることができるんです。僕らが使用しているダウンは、成熟した水鳥の羽毛を使用しています。特徴としては、国内で洗浄・精製しているので、羽毛本来の温湿度の調整機能が非常に高く、丈夫で羽毛特有の臭いがしないんですよ。
—— NANGAが使っているダウンはいくつか種類があるのですか?
現状は4種類ですね。フィルパワー* 930FPもある非常に高い保温性のハンガリー産シルバーグース、SPDXという最高級のポーランド産ホワイトグース(860FP)、UDDという超撥水加工を施したダウン(770FP)、DXというコストパフォーマンスに優れたヨーロッパ産ホワイトダックダウン(760FP)といった具合ですが、来季はここにスペイン産のダウンが加わります。
*フィルパワー
ダウンの測定基準で「ダウンの強度」または「その圧力に対する反発力」を表すもの。760FPとは30gのダウンに通常の圧力をかけて実験した際、760立方インチ反発するということ。FP指数が高いほど良いダウンといえる。米国のIDFL(国際ダウン&フェザー検査機関)でダウンの品質検査を行い、NANGAでは各フィルパワーをクリアしたダウンのみを使用している。
—— スペインにはダウンの産地というイメージがありませんね。
そうですよね。ヨーロッパ産の羽毛といえば北欧というイメージですし、スペインのイメージはまだまだ弱い。たとえば、フランス産の羽毛といえば、ピレネー山脈の麓が産地になっていますけど、実はピレネー山脈はフランスとスペインに跨っているんですよ。つまり、羽毛が採れる水鳥を育てている環境がどちらもほとんど変わらないということなんです。実際に今年の6月に現地に視察に行ってみましたが、設備や飼育方法といった生産体制、羽毛の質などは他の欧州産と比べても遜色はないと判断できました。
—— 暖かさを追求していくためには新たな産地の開拓が必要なんですね。
まさに、次の立ち位置を見据えてものづくりしていくということなんです。スペイン産の羽毛に関しては、現地の農家と専属契約を結んでクオリティコントロールしていきます。羽毛の検品も独自の検査基準を設けて、河田フェザーと一緒に一般の基準を1.5倍厳しくして、そこでもクオリティコントロールしていきます。
F/CE.®はデザインと軽量性、NANGAは保温性を追求する
—— NANGAにとって、ダウンは保温がすべてということがよくわかりました。
いかに体温を羽毛に伝えられるのか。それがNANGAの課題なんです。僕らの「熱伝導率を高める」という観点はファッションブランドにはないものであって、何を一番に求めるのかによって、ものづくりは変わってくるんですよ。僕らは保温性を重視して、F/CE.®はデザインと軽量性を重視する。お互いがそれぞれの課題を突き詰めれば、いいものを作りあう関係を続けていけると思うんです。
—— F/CE.®は18AWのNANGAとのコラボウェア用に、FLIGHT(エフライト)*というオリジナルファブリックを開発しました。メンズ・ウィメンズともにラインナップが増えて、デザイン面でのアップデートはNANGAに何か影響はありますか?
品番が増えて縫製がかなり難しくなりました(苦笑)。F/CE.®のプロダクトはいい意味で難しく、縫製の難易度が弊社の別注商品のなかでもベスト3に入ります。
*FLIGHT
F/CE.®が今期開発したハイスペックオリジナルファブリック。高い透湿防水性と軽量性を兼ね備えたメカニカルストレッチ素材のため、ソフトで滑らかな風合いを保ち、よりよい着心地を実現している。
—— 具体的にどういった部分の難易度が高いのでしょうか。
部位によってダウンの量を変えているプロダクトがあるんですよ。そうすることでデザイン性を高めているのですが、他社の別注商品やNANGAのオリジナルダウンウェアにもない複雑なディテールなので、F/CE.®からは僕らの技術力を認めたうえで難易度が高いことを求めているという信頼を感じますね。僕らが技術進歩していくためのヒントを教えられている部分が沢山あります。
—— 自らダウンウェアを手がける立場としても、現状に満足しないため高い目線で物事を捉えるきっかけになっていると。
コラボレーションを通じて、いかに自社の製品をアップデートしていけるかという。僕らはアウトドア視点、F/CE.®はファッション視点から、お互いに足りないものを補っているんだと思います。その異なるアプローチの取り組みの先には、きっと楽しい未来が待っているはずです。コラボレーションを始めた2011年、F/CE.®の山根さんが言っていたことをよく憶えていますね。まだまだ小さいブランドだけど、関わったブランドとは末長い関係を築いていきたい。今はオーダーは少ないけれども、なんとか一緒にやっていきましょうと。今ではF/CE.®の別注商品は一気にオーダーが増えました。理想の高さに付いていくのは大変ですが、約束を果たしてくれた山根さんの期待に、僕らは応え続けていける存在でありたいですね。